Third AI 生成AIソリューション
導入事例

日向市役所

最新モデルへの対応、読み込むデータとプロンプトの最適化により
精度の高い生成を実現
職員1人あたり1日平均20分の時間短縮の目標に対して17分の短縮を達成

行政の独自データを学習した生成AI 日向市モデルを構築し業務効率化を目指す日向市役所は、過去の議会会議録からの答弁案/Q&A案の生成を主とした最初のプロジェクトで、JTPのThird AI 生成AIソリューションを利用。最新モデルへの対応やデータとプロンプトの最適化により精度の高い生成を実現。4ヶ月のPoC期間を経て、目標として設定した職員1人あたり1日平均20分の時間短縮に対し、約17分の短縮を達成。


目次

Third AI 生成AIソリューション 導入事例 日向市役所

「JTPには、年度末が迫り切羽詰まった感もある中、色々手を尽くしていただきました。最終的に私たちが想定していたレベルに到達し、本当に感謝しています。とは言え、まだスタートラインに立ったところではあるので、自治体業務の効率化、市民サービスの向上の実現に向けて、今後もご協力していただきたいというのが率直な感想です」

寺尾 公孝 氏
日向市役所
総合政策部
行政改革・デジタル推進課
課長

導入前の課題

  • 連続した会話により議会答弁案から複数のQ&Aを生成したい
  • 議会答弁案のために生成可能な文字数を増やしたい
  • 参照する独自データから期間を指定して生成したい

導入効果

  • RAGにおいても会話による連続した生成が可能な実装
  • 利用できるトークン数の多い最新モデルへの迅速な対応
  • 独自データの読み込み時に和暦を西暦に変換

導入サービス/ソリューション/製品

市民サービスの向上や職員の業務効率化を指す「日向市DX推進計画」

宮崎県北東部の海沿いに位置する日向市は、温暖な気候と豊かな自然に恵まれた人口約5万7千人(2024年6月現在)の地方都市です。観光客や移住者の誘致による地域の活性化に注力する一方で、多くの地方都市と同じく人口減少が進んでおり、労働力不足が深刻化しています。日向市役所においても人材不足が課題になっており、総合政策部 行政改革・デジタル推進課 課長 寺尾 公孝 氏は、デジタル化による庁内業務の効率化が急務になっていると話します。

「人口は減少していますが、社会全体の価値観の多様化が進む中、庁内の業務量は以前よりも増加しています。これに対して職員の採用は年々難しくなっており、人が行う作業の中でデジタル化できる部分は、代えていかなければなりません」(寺尾氏)

寺尾 公孝 氏 日向市役所 総合政策部 行政改革・デジタル推進課 課長

寺尾 公孝 氏
日向市役所
総合政策部 行政改革・デジタル推進課
課長

このような背景の中、デジタル活用を積極的に進めてきた同市は、2022年2月、さらなるデジタル活用による市民サービスの向上や職員の業務効率化を目指す「日向市DX推進計画」を策定。また、2023年2月には同計画の推進に向けてソフトバンク株式会社と包括連携協定を締結し、同年4月からはソフトバンク社から出向したデジタル専門人材である稲村 公俊 氏が市役所にCIO補佐官として常駐。全庁を横断する新しい組織体制とともに、包括的なDX推進がスタートしています。

Hyuga_AIプロジェクトチーム

生成AIの導入検討とセキュアなAzure OpenAI Serviceの採用

2023年度に同市が着手した施策のひとつが生成AIの実用化です。生成AIは、同年の年明けから全世界的に注目を集めていました。日向市でも、ソフトバンク社から生成AIのテクノロジーに関する最新の情報を入手できたこともあり、すぐに導入の検討がはじまりました。初版の「日向市DX推進計画」策定を担当した総合政策部 行政改革・デジタル推進課 情報管理係 課長補佐 小野原 寛 氏は、導入の検討はスムーズだったと話します。

「2022年に策定された初版には生成AIの記載はありませんでしたが、RPAやAIを活用した業務効率化については触れており、職員からもAI活用の要望が大きかったことから、生成AIの導入検討はスムーズに進みました。改訂版では、生成AIの活用が追加されています」(小野原氏)

小野原 寛 氏 日向市役所 総合政策部 行政改革・デジタル推進課 情報管理係 課長補佐

小野原 寛 氏
日向市役所
総合政策部 行政改革・デジタル推進課
情報管理係 課長補佐

導入検討の段階で最も議論されたのがセキュリティの担保です。そのため「閉域化された環境で利用できる」、「独自に入力した情報をAIが学習しない」という特長を持つ、Microsoft社が提供する「Azure OpenAI Service」の採用が決まりました。Azure OpenAI Serviceへの接続には、一般のインターネット回線ではなく、SmartVPN*1を利用します。庁内システムのネットワークやセキュリティを担当する総合政策部 行政改革・デジタル推進課 情報管理係 主任主事の塩月 恵太 氏は次のように話します。

*1:ソフトバンク社が提供する閉域網サービスのこと

「市役所内の業務では機密性の高い情報を取り扱いますので、セキュアな状態での通信が必須です。生成AIの活用についても自治体が守るべきセキュリティの基準をクリアできるかどうかが重要でした」(塩月氏)

塩月 恵太 氏 日向市役所 総合政策部 行政改革・デジタル推進課 情報管理係 主任主事

塩月 恵太 氏
日向市役所
総合政策部 行政改革・デジタル推進課
情報管理係 主任主事

そして、2023年7月、同市は生成AIの業務活用の実用化について共同研究を目的とした覚書をソフトバンク社と締結。実用化に向けたプロジェクトがスタートしました。


独自データを学習した生成AI日向市モデル「Hyuga_AI」の構築

プロジェクトチームは生成AIの実用化の計画として、議会会議録や例規、業務マニュアルなど日向市の独自データを学習した日向市モデル「Hyuga_AI」を構築し、実際に業務で活用していくことを決めます。寺尾氏は、議会答弁書の作成において相当な業務効率化が期待できると話します。

「議会答弁書の作成には相当な時間を要しています。質問に対し過去の答弁との整合性を確認しながら、現在の施策方針等をもとに素案を作ります。また、再質問に備え複数のQ&Aを用意します。このため、議会会議録を学習させた生成AIの活用ができれば相当な時間短縮になると期待していました」(寺尾氏)

日向市の独自データを学習した日向市モデル「Hyuga_AI」

日向市の独自データを学習した日向市モデル「Hyuga_AI」

続いて同市は生成AIの実用化に向けて、職員1人1日あたり平均20分の業務時間の短縮を目指すことを決定します。

「他の自治体の生成AIの取り組みで職員1人1日あたり10分の短縮を目標にされているのを拝見したこともあり、そこを基準にさらに高みを目指して取り組んで行こうとなりました。庁内でヒアリングすると2〜3時間短縮できる業務もあれば、そこまで短縮できないものもありましたので、全庁平均で20分の時間短縮を目指すことに決めました」(寺尾氏)

そして、生成AIのSIベンダーとしてプロジェクトへのJTPの参加が決定。JTPの選定理由について日向市CIO補佐官 稲村 公俊 氏は次のように話します。

「JTPはソフトバンク社のビジネスパートナーの中でも、生成AIの導入実績が豊富にあり、洗練されたWeb UIがThird AI 生成AIソリューションで標準提供されていることが強みであると感じていました。そのため、安心できる体制でプロジェクトを進めることができ、日向市の要望に適した生成AI環境を実現できるだろうと考えました」(稲村氏)

稲村 公俊 氏 日向市CIO補佐官

稲村 公俊 氏
日向市CIO補佐官


行政データを学習した生成AIの実用化に向けた実際の課題

実際の実装作業がスタートした後、いくつかの課題が顕在化します。

「独自データを生成AIに渡せば、通常のChatGPTのように回答の履歴を保持したうえで「聞き返し」や「追加質問」が可能な「マルチターン機能」を最初から使えると思っていましたが、GPTのバージョンによってはマルチターンRAG*2の精度が悪くなることがあるため、Third AIでは回答精度を考慮して一問一答形式のチャットが基本仕様になっていました。また、当初使っていた言語モデル「GPT-3.5」では生成できる文字数に制限があり、そもそも議会答弁案生成には不十分でした。そして、利用時にプロンプトの作成に時間を取られてしまうことがないように、精度の高い生成ができるプロンプトを標準化しておく必要性を感じました」(寺尾氏)

*2:RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)チャットAI に独自の情報源として組織内のデータを付与し、必要な情報を検索して、その情報を基にユーザーの質問や要求に対して適切な回答やコンテンツを生成できるようにする技術のこと

さらに、寺尾氏は特に自治体での議会答弁案の生成には期間指定が欠かせないと強調します。

「通常、議会答弁案を考える際は過去の答弁を参考にしますが、生成AIを使った場合、過去データから類似の用語を参照するため、10年以上前のデータを元に答弁案を生成してしまうようなこともありました。答弁の内容は、その時々の国の施策や自治体の考え方で大きく変わることもあるので、古いデータを参照してしまうと今の方針に合わない答弁案になってしまいます。そのため、参照するデータの期間を指定できる機能が必要でした。しかし、役所ではデータを和暦で管理している一方で、モデルによってはAI側は和暦の新旧を判別できないことが判り、そのままでは参照するデータの期間を指定することができませんでした」(寺尾氏)


対話が可能な実装、データの最適化、最新モデルへの対応による精度の高い生成

まず、RAGを使う際にマルチターンのような会話で生成を行う点については、議会会議録に特化したプラグインの実装を行うことで、議会答弁案から再質問に対するQ&A案を複数個、生成できるようにしました。この部分は単なる効率化だけでなく、新たな気づきにもなり得ると寺尾氏は話します。

「議会答弁案からQ&Aを10個生成できると、大幅な効率化になると思います。生成した10個のQ&A案のうち6〜7個は、今まで自分で考えていたものと大差がなかったので、精度としては大筋間違いないと思います。残りの3〜4個については、思いつかない案だったので、生成AIからアイデアをもらっているようで、非常に勉強にもなると感じています」(寺尾氏)

文字数の制限については、当時の最新モデル GPT-4 Turboの採用により、膨大な文字数の議会会議録に対応できるようになりました。

「生成AIモデルは日々アップデートがあり、プロジェクト期間中にもどんどん新しいものが生まれています。今回、いち早く最新モデルを使うことができるようになったのは、JTPの迅速な検証とフィードバック、そして日向市の決断のスピードがポイントでした」(稲村氏)

データの期間指定については、議会会議録の検索データベース作成時に会議録の和暦を西暦に変換し、プロンプトで期間を指定できるようにすることで、フィルタリングが可能になりました。また、データの読み込み方法については、データ種別ごとに分ける/組み合わせるなど多角的な検証を行い、現在では、プラグインとして独自データを保存し、業務に応じて選択できるようにしました。

そしてプロンプトの標準化については、庁内のユーザーからのフィードバックを受けながら業務に応じた日向市専用のプロンプトを準備し、テンプレートとしてWeb UIに組み込み、利用時にすぐに呼び出せるようにしました。その他、ユーザー追加や権限の付与、利用状況の可視化が可能なダッシュボードを構築し、管理者による運用ができるようにしています。

「Hyuga_AI」のカスタマイズされたWeb UI

「Hyuga_AI」のカスタマイズされたWeb UI


目標20分に対して17分の時間短縮を達成、及第点として評価

生成AIのPoCは16名の中核メンバーを中心に職員約600名の約15%にあたる91名を選抜して実施。4ヶ月のPoC期間の後に、どれくらい業務時間を短縮できたかアンケートを行い導入効果の検証を行い、1日1人あたり平均17分短縮できたことが判りました。

「当初の目標は平均20分でしたが、今回の短いPoC期間の中で見るには平均17分は及第点と言えます。中には2時間以上短縮できたメンバーもいます。73%が5分以上短縮できたと回答しており、平均値が17分ということになります」(寺尾氏)

ただ、回答に関しては個人の主観に依るとこも大きく、継続的な啓発の必要性を感じたと言います。

「生成AIにより業務効率が悪化したという回答があったのですが、これは何のために生成AIを使うかという本人の意識で大きく変わると思います。負担を10から7に減らせたらよしとするか、完璧な内容が生成されないからダメとするかは、個人差がありますので、庁内での継続的な啓発の必要性を感じています」(寺尾氏)

実際のPoCでは、メンバーのフィードバックを受けながら繰り返し改修を重ねプロンプトのテンプレートに反映していったため、ネガティブなフィードバックが多かったメンバーの意識が次第に変わっていったケースもあったと言います。

寺尾氏はJTPについて次のように評価します。

「JTPには、年度末が迫り切羽詰まった感もある中、色々手を尽くしていただきました。最終的に私たちが想定していたレベルに到達し、本当に感謝しています。とは言え、まだスタートラインに立ったところではあるので、業務の効率化、市民サービスの向上の実現に向けて、今後もご協力いただきたいというのが率直な感想です」(寺尾氏)


今後の全庁への展開による業務効率化の徹底、そして他自治体との共創の可能性

生成AI 日向市モデル「Hyuga_AI」では、今回のPoCを経て、現在は議会会議録と例規集という2つのデータ、そして、これらに対応したプロンプトテンプレートが組み込まれています。2024年4月時点で、庁内のユーザー数を250名まで拡大しており、夏頃までには各種計画書や業務マニュアルなどデータの拡充を図るとともに、ユーザーを全職員に展開する計画です。

「今後は、職員にどのように使ってもらえるかが重要です。稲村CIO補佐官とも話し合っていますが、これから生成AIに触れる職員にはマニュアルを提供するだけではなく、一定期間ごとに研修を行ったり、業務ごとにプロンプトテンプレート集を提供したりしないと、利用促進には繋がらないと思っていますので、まずは、この部分をしっかりと取り組んでいきたいと思っています」(寺尾氏)

そして最後に、寺尾氏は生成AIの導入を検討している他の自治体に向けて共創の可能性を示唆します。

「生成AIは、安全性を確保して独自データを活用できれば生産性を大きく上げることが可能だと感じています。もし、当市の取り組みを詳しく聞いてみたい自治体がありましたら、ぜひご連絡ください。課題を共有しながら、市民サービスの向上や職員の働き方改革など、一緒に進めていけるのではなないかと思っています」(寺尾氏)

JTPは、さまざまな業界への生成AIの導入を通して育まれたベストプラクティスを集結し、今後も日向市役所の生成AI「Hyuga_AI」の成長と庁内での利用促進、さらには、同市のDX推進をソフトバンク社と共にサポートしていきます。

Hyuga_AI プロジェクトチーム・ソフトバンク社・JTP

Hyuga_AI プロジェクトチーム・ソフトバンク社・JTP

宮崎県日向市のサーフタウンプロモーション「ヒュー!日向」

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この事例に記載された内容は2024年6月現在のものです。